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金持になると民主化する(3) [随想]

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金持になると民主化する(3)

金持になると民主化する(1)から

この本はNew York Times Bestsellerとしてよく売れた本である。要するにこれまで民主主義というものが宗教、国家などのさまざまな組織の中で如何に歴史的に育って来たか、或いは過去の経験からして何がそれが阻止することになっていたのか、そしてこれからの世の中がより広く開かれた民主的になって行くであろうが、一方でアメリカのような既に民主的といわれている国がこれからどのようになって行くであろうか、などなどこれまでの過去を振り返って、これからの姿を考えてみたものである。それと並んで、皆の幸福というものがどのような姿を持つものと考えられるかという問題を提起している。(以下省略)

(本文)

 しかし1970年頃に行った時は大分事情が異なっていた。プリンストンの表通りのレストランには黒人が入っていたし、古い友人は「ケンジ、あの頃とは全然違って来たよ。窓など無断で開けられたりしたら、警察に通報されるよう、仕掛けをつけなければいけないんだ」とのことであった。ベトナム戦争の余波で昔の落ち着いた街の風景がすっかり変わって荒れた感じであった。   

     

 しかし、その後の二、三十年の間にアメリカの国民の一人当たりの収入は50%増加し、犯罪は激減し、人種関係の問題も少なくなり、一方ではソ連の共産主義が崩壊してアメリカは世界で唯一つの強い国になってきた。しかしその一方では民主化し過ぎたとでも言うのか、大分世の中の様子が変わってきた。   

 

 例えば、連邦政府に対する信頼度は1960年代には70%以上あったといわれ、「政府は大体正しいことをやっている」ということになっていたのが、いまではそれが30%近くにまで落ちている。それに似た事として、例えば、public official、つまり、お役人、は国民のことを考えて仕事をしているか、と言う問いに対して、60年代にはおよそ三分の二は肯定的であったのが、90年代には三分の一にまで低下している。大統領の選挙の投票率にしてもその間に20%低下している。今のアメリカでは民主主義に対して深刻な変化がおきていると考えざるを得ない。国民はいいのだがシステムが悪いのだと言う声が高い。

             

 政府は常に国民の世論に従うように気を使うし、国会議員たちは次の選挙に成功することばかり考えるようになっている。世の中、宗教なども含めて「権威」が低下しているのである。(逆に言うと皆が偉くなって来たのかも、と言うよりもむしろ自己主張に基づく個人主義的な考え方が強くなってきている)従って現在のような傾向が続く限り民主主義は間違いなく本来の意義を失うことになると言わざるを得ない。民主主義への信頼の喪失でもある。矢張り民主主義の体制の中で権力を持つ人たちが責任感を持って社会をリードし、皆から尊敬される行動をすることに賭けるしかないのではないだろうか。と言うのが、この本の結論めいた結びである。皆が信頼できる人材を如何に権力を持つ立場で選ぶことが出来るか、言うは易いが、一つの大きな基本的な問題である。

    

 私見ではあるが、現在情報化が飛躍的、且つ加速度的に発展、普及して、人類は未だ嘗て持たなかった新しい文明に移行しつつある。世界のあらゆる人が、国、宗教、民族などの垣根を越えて直接communicateする時代になって、新しい文明が開かれつつある。その文明の下では当然世界化が飛躍的に進むであろう。(現在の中国のようにこの種のcommunicationを国の力で阻止しても何時までもできることではない。昔ソ連などの共産主義が崩壊したように情報の波は世界の情報を伝え、人の考え方を変えてしまうことになる) 世界中の人が国や人種、宗教の別なく自由に付き合う時代には民主主義自体もその中で新しい形を持った政治形態になるであろうことは疑う余地もない。 

 前にも書いたが、アメリカで孫たちが通った小学校の校長さんに娘がどんな子供を育てようとしてしていますか、と尋ねた時、校長先生は、三つのことを挙げたという。「independent thinker, team player,and prodctive」、つまり各自は自立して自分の考えを磨き、社会に馴染み、且つ社会に役立つ人材を創るというのである。社会に馴染みながら自分で個性的に考えるのは正に民主主義の基本であるに違いない。しかしこの「社会に馴染む」精神は個人主義的考え方に自ずから限度があることを示してもいる。よい社会を作るのはいつの時代でも教育が基本であることに間違いない。

          (2006年4月8日)

 このホームページにある「ノーベル平和賞を劉さんに」という項目にもここにある内容について触れている。最近のエジプトをはじめとしての中東諸国における激しい反政府デモについても、石油からの利益を基にしての生活向上の結果として、何十年もの間の独裁政権から離脱して民主主義への脱却を図ろうとする動きについて、この書の言う「生活レベルが向上すると民主主義に向かう」ということが現実の問題として非常に参考になるのではあるまいか。

          2011218日)

                                       

 金持になると民主化する (HPへ)                 

      

                                  


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コメント 5

Baldhead1010

選ばれると言うことは自分のことしか考えなくなることですね。
by Baldhead1010 (2011-03-03 05:12) 

yakko

お早うございます。
やはり教育が基本なんですね。そして人材ですね。
今の IT 時代はどこへ向かって行くのでしょうか〜?
by yakko (2011-03-03 10:37) 

Silvermac

「IT革命」という言葉がありましたが、本当に革命が起きましたね。新しい文明が生まれつつある時代、しかし、その基本は社会に役立つ人間づくりでしょうね。
 また、よい本をご紹介下さい。
by Silvermac (2011-03-03 10:45) 

mimimomo

こんにちは^^
米国に住んでいた1980年代後半でも、学校の先生《当時60歳代と思われた》は嘆いていらっしゃいました『昔は良かった』っと。
しかし、わたくしは民主主義が行き過ぎた《?》形の個人主義はまだ
中東や中国、北朝鮮などの独裁よりかなり良い制度だと思います。
もっともこれが行き過ぎるとだんだん今以上に酷い事になることは必至。
あまりにも個人の自由や、表現の自由が行き過ぎるとやはり大きな問題だと思います。
政治家も教育には真剣に取り組まないといけませんよね。
by mimimomo (2011-03-03 13:59) 

旅爺さん

中国も民主主義に向かう様な気がしています。
by 旅爺さん (2011-03-04 13:25) 

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